映像酔い

(1)映像酔いとは?

映像酔いは、映画やビデオ、テレビゲームなどで、シーンの中を自由に動き回るような非常にダイナミックな動きをともなう映像や、手持ちのカメラで撮影した手ぶれの多い映像などを、特に大きなディスプレイで見るような場合に起きやすいと考えられています。

映像酔いの症状は、初期の段階で、めまい、倦怠感、ねむけ、顔面蒼白、さらに冷や汗、唾液の増加、胃の不快感などが現れ、ひどくなると吐き気や嘔吐などが生じるのが一般的です。

映像酔いは、その症状や起きたときの様子から、乗り物酔いと同じ「動揺病」の一種と考えられています。そして、動揺病には、乗り物酔い、映像酔いの他に、最近研究開発が進んできたバーチャルリアリティ映像を体験するときに起きる「サイバー酔い」や「シミュレータ酔い」などがあります。


(2)なぜ、映像酔いは起きるのでしょうか?


映像酔いが、どのようなメカニズムで起きるかについては、実はそれほど詳しくわかってはいません。しかし、動揺病がなぜ発生するかについて、これまでいくつかの考え方が示されてきました。ここでは、その主なものとして、感覚矛盾説、中毒説、姿勢不安定説についてお話したいと思います。

@感覚矛盾説

人間は、自分の身体の動きについての情報をさまざまな感覚器官から取り入れて、身体のバランスを維持したり、自由に運動しています。たとえば身体が動いたという情報は、眼の網膜に映る像の変化として取り入れます。

また、耳の奥の前庭器官といって、姿勢や身体の動きを捉える器官からの信号として取り入れることができます。さらに、身体が動けば各部位の筋肉が動いたり、地面や周囲と接触する部分が変化したりすることを感じます。

ある身体の動きに対して、それぞれの感覚器官がどのような情報を伝えてくるかを脳が把握していると考えられます。

たとえば、大きなスクリーンに映し出されたダイナミックな動きを伴う映像を見たとき、視覚情報(目から入ってくる情報)は身体の動きを伝えていると脳が解釈します。もし、体が静止した状態で見るならば、他の感覚情報は身体の動きを伝えていない状態になり、本来の感覚情報の間に非整合(ズレ)が生じ、その関係が壊れてしまうことになります。

この場合に酔いが起きると考えるのです。しかし、感覚情報の間の非整合(ズレ)がある場合にも酔いが起きないこともあり、この仮説だけで全てが説明されるものではありません。

A中毒説

動揺病は、人間が進化する過程で生きるために取り入れた一つの知恵ではないかという考え方です。具体的には、毒物などを食べてしまったときに、視覚系や前庭系などの働きついてのお互いの関係を非整合にして、めまいや姿勢のふらつくような状況にさせ、胃の内容物を吐き出して生き延びる手段を獲得したとするものです。そしてそのために、毒物を食べたわけでなくても、視覚系や前庭系などの働きについてお互いの関係に非整合が起きた場合に、めまいや姿勢のふらつき、嘔吐などの症状が現れると考える説です。

この説は話としては興味深いのですが、進化に関わるもので、基本的には検証が困難であるという側面があります。


B姿勢不安定説

これは、人間が姿勢の安定を保つのに不慣れな環境に置かれることが酔いの原因とする説です。私たちは、通常、意識せずに姿勢を安定な状態に維持していますが、実はさまざまな感覚情報を使って姿勢の維持を行っています。それが何かの理由で不安定な状態に置かれた時に酔うという考え方です。しかし、映像酔いは、人をアゴ台や頭を置く台などでしっかり固定して、姿勢が安定したような状態でも起きることから、この説の確かさについては疑問が残ります。


(3)動揺病が発生するしくみ

映像病を含む動揺病が発生するしくみについては、生理学(生体、器官、細胞などの機能を研究する学問)から、脳幹(脳のうち、間脳、中脳、橋、延髄)に位置する前庭神経核(内耳に位置する三半規管などからの感覚情報を処理する器官や神経)で、前庭系からの入力の他に、視覚系や、触覚等に関する体性感覚系、運動機能をコントロールする小脳からの刺激が報告されており、こうした感覚情報間の統合が関係すると考えられています。

また前庭系と自律神経系とは、解剖学的にも電気生理学的にも密接な関係にあることが知られており、酔いによる不快症状との関係を示すものと言えそうです。

さらに、酔いを引き起こすような回転運動を実験動物(ラット)に与えると、視床下部(間脳の後ろ側にあり、知覚神経と大脳の接続部分)や脳幹のヒスタミン濃度が上昇することから、これが動揺病のおける嘔吐に関連すると考えられています。


(4)映像酔いの予防方法

予防については、映像と視聴環境に注意が必要です。さらに私たち視聴者自身が注意をすべき事項があります。

まず、映像酔いしにくい映像や、そうした環境を用意するという点では、映像酔いを引き起こす、あるいはそれを増幅させる原因について、まだ解明されていない点も多く、十分な対策が立てにくいというのが現状ですが、映像の見かけの大きさを小さくして観賞すれば、ある程度防ぐことが可能です。

たとえば、テレビであれば十分に離れて見るとか、携帯型ゲーム機であれば、支障のない範囲で手を伸ばすくらいにして楽しむことです。ただし、映像の見かけの大きさを小さくすることで、映像が見えにくくなったり、映像の迫力自体も損なわれますので必ずしも良い対策とは言えません。

次に、視聴者の対応策としては、まず映像酔いに慣れるということがあるかも知れません。乗り物酔いもそうですが、映像酔いもある程度繰り返し体験することで症状が緩和することが知られています。ただし、慣れるまでは苦痛が伴うことは言うまでもありません。

これに対し、乗り物酔いと同様に薬物の服用が実用的と言えそうです。動揺病に対しては、副交感神経遮断薬、抗ヒスタミン薬などが有効とされていますが、副作用として、自律神経活動への影響、視機能への影響、記憶や動作などへの影響などが報告されていますので注意してください。最近では、針や指圧などによる方法も研究が行われています。もちろん、疲れていたり体調のすぐれない時には刺激の強い映像を見ないなど基本的な対策も大切です。

 

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安全な映像について考えてみましょう。